朝の空気は冷んやりとして、まもなくやってくる冬を予感させる。
暑かった夏—今年はことさらそうだった—がすぎ、木犀のほのかな香りも束の間。
毎年この時期になるとこの歌について書いている。何度目になるのか…. 最初がこれ。
単に「好き」というのを超えて、無くてはならないものとなっているのがリヒャルト・シュトラウスが若い頃に作った歌「万霊節」。
4分に満たないこの歌に、これほど惹かれるのはシュトラウスの最高の美質が狭雑物を何も含まずに作られている、としか言いようがない。その後、シュトラウスはたくさんの管弦楽作品、歌劇を生み出すのだが、そこには夾雑物、外連味と言い換えられる — が多分に含まれ、往々にして上っ面を撫でてゆくように通り過ぎてしまう。もちろんそれらを実際にコンサート会場やオペラ劇場で聴く(見る)ことは愉しいのではあるが。
そして最晩年になり、この「美質」に回帰するかのように創り出されたのが1948年に作曲した「4つの最後の歌」 Vier Letzte Lieder や遺作となる“Malven”(あおい)だと思う。
万霊節 Allerseelen 作品10-8
作詞 : ヘルマン・フォン・ギルム Hermann von Gilm
Stell auf den Tisch die duftenden Reseden,
Die letzten roten Astern trag herbei,
Und laß uns wieder von der Liebe reden,
Wie einst im Mai.
Gib mir die Hand, daß ich sie heimlich drücke
Und wenn man’s sieht, mir ist es einerlei,
Gib mir nur einen deiner süßen Blicke,
Wie einst im Mai.
Es blüht und duftet heut auf jedem Grabe,
Ein Tag im Jahr ist ja den Toten frei,
Komm an mein Herz, daß ich dich wieder habe,
Wie einst im Mai.
テーブルに木犀花をおき、
吉田秀和 「音楽の光と影」 五月の愛のように 中公文庫
名残りの赤い菊を持ってきて。
こうしてまた恋を語り合おう。
昔五月にしたように。
手を出して、ぼくにそっと握らせて。
人が見たってかまわない。
君の甘い眼差しを一つください。
昔五月にしたように。
今日はどの墓も花でいっぱい。
だって今日だけは年に一度、死者が解放される日なんだから。
もう一度胸にしっかり君を抱きしめさせて、
昔五月にしたように。
今年はクリスティアーネ・カルクが歌ったアルバムを。
ドイツ、バイエルン州フォイヒトヴァンゲン生まれ。ザルツブルク・モーツァルテウム大学とヴェローナ音楽院で声楽を学ぶ。
2008年にフランクフルト歌劇場のアンサンブル・メンバーとして「フィガロの結婚」のスザンナ、「ラ・ボエーム」のムゼッタ、「魔笛」のパミーナといった役を演じていることからも、どんな声質の持ち主かを想像できるだろう。
実際に聴くと、澄んだ美しい声、何よりも明晰な発音。ピアノ伴奏(マルコム・マルティヌーあるいはマルティノー)の響きも美しい。
「4つの最後の歌」ではシュナイトのコンサートが忘れられない。